呉 達人
Shopify新規構築をはじめ、自社EC・Amazon・楽天市場・クラウドファンディングを活用した総合的なEC運営支援に取り組んでいます。
2020年5月7日に東洋経済オンラインで下記の記事が公開されました。
北米発「アマゾンキラー」がいま楽天と組む真意
記事の内容を要約すると、恐らくこうした内容で間違っていないと思われます(記事が削除されたときの為に)。
- マーク・ワング氏へのインタビュー形式
- 楽天市場と連携したのはストアの個性が出せるから
- 現時点でアマゾンとの連携予定は無し
- 20年3月はストア開設数が急増した
- 今後もECの需要は伸びる
- 1つのプラットフォーム依存は危険
記事の中で直接的には書かれていませんでしたが、記者の心の中では恐らくこのように言いたい(印象付けたい)のだろうと邪推しました(あくまでも個人の感想)。
メディアなのでどうしても「キャッチーなコピー」を使いたい意図は分からないでもありません。
ちなみにこの「アマゾンキラー」というワードは今年の2月7日にテレビ東京の報道番組WBSで特集された際に報道されたことが日本国内では最初のインパクトになったと思われます。
とはいえ「アマゾンキラー」という言葉だけが独り歩きして消費者にも事業者にも誤った印象を与えてしまうのでは、という危惧はあります。
今回の記事はあくまでも筆者本人の主観も混じっています。事実として提示できることは出していきますが、それを踏まえて本当にShopify(ショッピファイ)はアマゾンキラーなのか?今一度考えていきたいと思います。
目次
Shopifyはアマゾンキラー「では無い」理由
先に結論から申し上げますと、私はShopify(ショッピファイ)はアマゾンキラーでは無い。つまりアマゾンと対抗する勢力だという認識は誤っていると考えています。
それにはいくつか理由があります。
と、その前に「お前は何様なんだ!」と思われる可能性が高いので私の立場をハッキリさせておきます・・・
弊社は2019年からShopifyで実際にストア運営を行なっています。Shopify以外にもAmazon、ヤフーショッピングなどのモール販売もしています。店舗は持っていませんがポップアップストアや展示会への参加も経験しています。
また、Shopifyパートナーとして他社様にもShopifyのストア構築・運営支援をしています。
Shopifyに関して「何でも知ってるエキスパート」ではありませんが、現場レベルで実際に利用したり運営支援をしていますので、少なくともShopifyを使ったことが無い、名前すら知らないという方よりはノウハウや実情に触れているとご理解ください。
では話を戻しましょう。
Shopify Japanの方々が否定的
まず最も確実な根拠としてはShopify Japanに勤めるスタッフの方々が否定的だからです。
弊社はありがたいことに今年の4月からスタートしたShopifyが主催する「Shopify Partner Boot Camp: Japan」というパートナー企業育成プログラムに参加させて頂いています。詳しくは控えますが、その場でスタッフの方からアマゾンキラーという表現には否定的なコメントがありました。
また冒頭に掲載した記事でマーク・ワング氏も下記のように発言しています。
ショッピファイはEC事業者がマルチに販売チャネルを持つことの重要性を理解しているので、他のマーケットプレイスを排除するつもりはない。EC事業者にスケールメリットを提供できるならば、どんなパートナーとも組む。
この点に関しては私も大いに賛同します。詳しくは後述します。
多くのサービスと手を組む柔軟性
私はShopifyほど多くのサービスと手を組む柔軟性を持ったECプラットフォームを見たことがありません。
ECプラットフォームというより、Shopifyという企業として多くの企業とパートナーシップを組んで手を取り合ってビジネスを大きくしてきた気概を感じています。
それはShopifyが提供するサービスの設計からして、そうだと言えます。
Shopifyを一言で紹介すると「クラウドベースのオムニチャネルを実現したプラットフォーム」です。
これはShopifyが提供する公式情報にも記載されています。
Shopifyが提供するサービス(管理画面や決済システム等)はクラウドベース。インターネット環境があればどこからでもアクセスでき、複数のチームやスタッフ間で編集や管理もできる点でSaaS型ECプラットフォームとも言えます。
クラウドベースでサービスを提供することでユーザー(ストア運営者)はイニシャルコストを抑え、管理工数を削減できます。
そして何よりの魅力はユーザーが自由にカスタマイズできること。それを実現するのが世界中の開発者が開発、提供するShopifyアプリとの連携です。
例えば今回話題になった楽天市場との連携もそうですが、それはShopifyの数ある連携チャネルの1つに過ぎません。
すでに2018年6月にはInstagramでのショッピング機能をリリースしてInstagramでの販売が可能になりました。
そして「オムニチャネルを実現した」とあるように、オンラインに留まらずオフライン(実店舗やポップアップストア)でも利用できるShopify POSも提供しています。決済できる端末(カードリーダー等)の提供こそまだ無いものの、オンラインとオフラインの売上管理や在庫管理が一元化できます。
また、顧客が利用できる決済システムも豊富に用意されています。
主要なクレジットカード決済をはじめAmazon Pay、Google Pay、Apple Pay、Paypal、携帯キャリア決済、コンビニ払いなど豊富な選択肢を提供しています。
この中にAmazon Payがあるように、顧客がAmazonアカウントを持っており、ストア運営者がAmazon Payを導入していればAmazonユーザーとも共存できるのです。
豊富な販売チャネルと決済方法、アプリによる追加機能の実装、あるいはShopifyテーマストアと呼ばれるデザインテンプレートの提供など、あらゆる側面でShopifyは多くの企業と手を組み、サービスを充実させています。
事業者同士を繋ぐ横展開の強さ
Shopifyはストア運営者をはじめ、運営者をサポートするパートナー企業(ShopifyパートナーやShopifyエキスパート)が広く交流できる場も積極的に開いています。
例えばShopifyコミュニティでは運営者同士やパートナー同士が交流できます。運営する中で困ったことや質問、あるいは今後追加して欲しい機能などを投稿すると有識者から回答を得ることが出来ます。
※内容によって必ず回答があるとは限りません
いまは新型コロナウイルスの影響でオンラインのみですが、以前はオフラインでのセミナーや交流会も積極的に開催していましたし、収束すれば再び開催されることでしょう。
また、私が感動したのはShopify公式だけではなく、有志の集いやセミナー、情報交換が活発である点です。
こうした事業者同士の繋がりはAmazonを否定するものでは無く、むしろAmazonの良さ、Shopifyの良さをそれぞれ理解したうえで最適なサービスを提供する1つのきっかけになっていると考えています。
つまり、ShopifyがShopifyユーザーを囲い込みAmazonを否定するのではなく「良いところは使い、出来ないことは補う」という柔軟性のある考え方を提唱しているのではないかと考えています。
消費者とストアを繋ぐプラットフォームの役割
Shopifyを一言で紹介すると「クラウドベースのオムニチャネルを実現したプラットフォーム」であると書きました。
一般的にプラットフォームと言えば、まさしくAmazonや楽天市場、あるいはZOZOTOWNなどのように大きなモールに出店する「間借り」的なイメージが強いのではないでしょうか。GAFAなどの巨大IT企業が「プラットフォーマー」と言われることにも似ています。
とはいえ、プラットフォーム、中でもオンラインプラットフォームはあくまでも「土台」となるサービスの提供です。
Shopifyはストア運営者に対してECサイトを運営するためのサービス一式を提供するプラットフォーム。
そして消費者にとってもプラットフォームとしての役割が大きくなってきました。
それはShopifyが提供する決済システム「Shopifyペイメント」と2020年4月にリリースした「Shop: delivery & order tracker」というiOS・androidアプリです。
これらに共通することは「一度でもShopifyで運営するストアで買い物をしたら、他のストアで決済情報の入力が簡略化され、購入履歴や配送状況の確認も一元管理出来る」のです。
つまり、消費者は知らず知らずのうちにShopifyという共通のプラットフォームで運営されている各ストアで買い物をする、という繋がりのある体験をすることになります。
プラットフォームとしてのAmazonとShopifyは似て非なるもの
同じプラットフォーム同士ならShopifyはAmazonの対抗勢力ではないか?という意見もあるかと思います。
しかし私はプラットフォームとしてのAmazonとShopifyは似て非なるものだと考えています。
ストア運営者にとって「Shopifyに出店している」という感覚はあまりありません。
同様に消費者も「Shopifyで買い物をする」という感覚は、あまりないでしょう。
一方Amazonの場合、ストア運営者は「Amazonに出店」する感覚が強く、消費者も「Amazonで買い物をする」感覚が恐らくは一般的です。
つまり全面に出る対象が異なります。それは印象とも言えます。
Shopifyはあくまでも「ブランド」や「ストア」、あるいは「個人」といった独自の個性が全面に出ます。
Amazonはブランドやストア関係なく、一律「商品」が前に立ち、「誰から買うか」はあまり考慮されません(一部ブランド登録による訴求は可能ですが)。
そういった意味で楽天市場は商品よりもブランドやストアが前に立つ設計になっているので、その点でShopifyが連携を進めた理由は理解できます。
「どこで買うのか」「誰から買うのか」という視点の違いはAmazonとShopifyで似て非なるものであり、それぞれにそれぞれの良さがあるので競合することは無いものと考えています。
例えば「○○というブランドの××という商品が欲しい!」というニーズが決まっていればShopifyが優れています。
一方で「ガムテープが無くなったから安いのを買おう」というニーズであればAmazonが優れています。
それぞれ役割や強みが異なるのです。
アマゾンキラーでは無いが「Shopify一択」でも無い
ここまでShopifyが「アマゾンキラーでは無い」ことを分析してきました。
実際に弊社では今でもAmazonとShopifyで同じ商品を扱うこともしていますし、Amazonで販売しておりShopifyでは販売していない商品、またその逆など様々な販売をしています。
また、AmazonのFBAマルチチャネルを利用してShopifyと連携することで在庫の一元管理や併売も実現しています。
AmazonにはAmazonの良さ、相性の良い商材があります。
そしてShopifyにはShopifyの良さがあります。
ちなみに冒頭でご紹介した記事では、やたらと「なぜアマゾンと連携しないのか?」を強調したそうでしたが、海外ではすでに連携しています。
日本ではまだ連携していない、というだけの話(実際に連携するかは未定)です。
今までも、そして恐らくこれからもShopifyはAmazonの対抗勢力では無く共存できるプラットフォームです。
また、数あるECカートシステムの中で必ずしも「Shopify一択」というわけではなく、例えばやり方次第でBASEとShopifyを同時に利用するといった戦略も十分にあり得ます。
メディアが言うことなので何かとインパクトを付けたいのはよく分かります。恐らく今後もアマゾンキラーというワードが充てられることもあるかと思いますが、その言葉だけが独り歩きせず、Shopifyの実情が一人でも多くの方に伝われば幸いです。
私自身もShopifyの魅力はもとより、Shopifyだけに偏らず柔軟な発想で情報発信していければと考えています。
まさしくShopifyが柔軟に多くの企業と手を組んでいるように。